江戸前の海苔佃煮
遠忠食品は東京の里海である江戸前・東京湾で採れた佃煮を製造・販売しています。その産地をめぐる映像づくりシリーズのひとつとして取り組みました。
千葉県富津で海苔漁師を4代にわたって営んでいるのが鈴藤丸。 遠忠食品はこの鈴藤丸の一番摘みの生海苔で佃煮を作っています。 富津の海苔の特徴はやわらかい葉質にあります。 その理由は潮の流れが速く、冬は北風があたりにくい富津の海。
鈴藤丸の四代目 鈴木和正さんは、この場所とその年の気候や海の状態にあわせ、「最高の海苔づくり」へのチャレンジを続けています。 自分の育て方にあった9月の種付け、10月の育苗など取り組むことは多岐にわたります。 苗がある程度まで育つと、そのまま育て続ける苗と、一旦、陸上に引き上げて冷凍倉庫で保管する苗にわけます。時間差で海苔を育てることで春先まで海苔を収穫することができるからです。スゴイ知恵。
そんなわけで収穫は11月半ばからはじまります。 刈り取られた海苔網は収穫後に海に戻され、ふたたび葉をのばします。 ワンシーズンに10回ほど収穫されますが、収穫を重ねるごとに葉は硬くなっていきます。 最初に収穫される「一番摘みがもっともやわらかい」のです。
一番摘み生のりはほとんど入手できない希少な食べ物
通常、海苔は収穫されるとすぐに洗浄・乾燥にかけられ、いわゆる板海苔(焼海苔)になって流通します。したがって「生海苔」は通常ルートでは入手が難しく、基本的には海苔漁師から直接わけてもらうのです。
しかも海苔を収穫した船が港につくと、すぐに船からポンプを使って海苔の加工場に吸い出され、自動的に洗浄・刻み・焼き加工に流れてしまいます。つまり生のりをわけてもらうとしたら、このわずかなタイミングか、あるいは洗浄後に焼き加工に入る前に必要な量をわざわざ分けてもらうしかありません。生のりはふんわりやわらかでシルキーな食感で、焼海苔とはちがったおいしさがあります。とはいえほとんど知られることがないのだと思います。
さて先ほど海苔はワンシーズンに10回ほど収穫されると書きました。収穫を重ねると次第に葉は硬くなっていくので、種から苗、そして収穫される一番最初の海苔を「一番摘み」「初摘み」と呼び特別な扱いをします。ちなみに一番摘みの生のりはとりわけ繊維がきめ細やかでしっとりとして、香り高い特徴があります。
こう書くと2番摘み以降は硬くておいしくないように感じられるかもしれませんが、それは用途によります。ふんわりと温かいごはんの上で溶けるようなやわらかな食べ方をするなら一番摘みもありますが、おにぎりにすると破れやすく、おにぎりにべったりとはりついてしまいます。2番摘み以降のしっかりした海苔は繊維の強さからやぶれにくく、たとえば朝つくったおにぎりをお弁当で食べるときにごはんと海苔がいい感じに味もあわさって美味しいというのもあるのです。
どれかひとつを権威化するのではなく、多様性を楽しむということもとても大事だと思います。
かつて年間で100億枚作られていたという海苔。近年は70億枚を下回ってきているようです。日本中で頑張っている海苔漁師は、全員がそれぞれの地域の風土と気候とむきあって最高の海苔を目指して試行錯誤を繰り返しています。今年は有明が色落ちで大きく話題になっていましたし、全国的には食害が大きな問題です。
こういう状況にすぐ否定的になるのではなく、その年、その地域の状況として、それ自体をきちんと食べながら受け止めること、とりわけ美味しいく豊かな年は、海苔漁師と「ありがたいな」と感謝しつつ味わっていくことが、何よりおいしさになると思っています。