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Farm to TableからTable to Farmへ

 「Farm to Table」という言葉は2000年ごろからアメリカを中心に登場しました。
産地と消費者をダイレクトにつなるコミュニケーションのあり方もふくんだ取り組みで世界的なムーブメントになりました。約20年をへてこれからは Farm → Table という方向に加えて、消費者(Table)みずから進んで生産者(Farm)を訪ねていく Table → Farm も今後は重要になるのではないかと思っています。以下はそんな話です。

 「Farm to Table」が流行ったのは2000年ごろからですが、実際にはその基盤となる取り組みがあちこちで長年にわたって続けられてきた背景があります。サンフランシスコ「シェ・パニース」のアリス・ウォータースや、ニューヨーク「ブルーヒル」のダン・バーバー、『人間は料理する』『雑食動物のジレンマ』などで知られる作家でジャーナリストのマイケル・ポランなどが旗手となって大きなうねりを作ってきました。地元産地の食べ物のおいしさを再発見できるレストランの登場や、地元農園によるマルシェ、またそういった取り組みを取り上げるメディアなどが賑わうようになりました。

 日本の有機農業運動は1971年の日本有機農業研究会の発足当時から、<提携>と呼ばれる農家と消費者が互いに支えあう関係の重要さを提唱し、日本各地で取り組んできましたし、イタリアでは1986年からスローフード運動がはじまり、フランスでは1990年から「味覚の一週間」が立ち上がったり、同じようなテーマと運動が世界各地でおきていて、「Farm to Table」もそのひとつとも言えそうです。

 こういった運動が活発になる背景には、第二次世界大戦後の急速な工業化。それにともなう公害・環境汚染の問題。またアポロ計画に代表されるような宇宙開発によって地球のちっぽけな姿を目の当たりすることなどが折り重なったこと。さらにはそういった情報がテレビやラジオといったメディアの拡充によって急速に伝わったことがあるのだと思います。

 この時代は工業化とともに食べ物も生鮮品から加工食品・外食へとシフトしていきます。
生産者と消費者の距離は物理的にも仕組みとしても遠ざかり、作り手は消費者の食べている様子は統計的に知るようになり、食べ手は企業のアイコンやCMを通して作り手を知るようになります。両者の距離が広がることで倫理性の欠如から、衛生的に問題のある加工食品の流通が取り上げられるようになります。誰が食べているのかわからないから企業の売上・利益のために多少危険でも目をつぶるという行為です。この問題は消費者運動を巻き起こしていきます。

 ここで踏みとどまって俯瞰してみると「食の上流側に問題があり、下流である消費者は被害者である」というような暗黙の図式が横たわっています。同時により多くの顧客に販売しようと「作り手」があの手この手で消費者を「お客様!」と持ち上げていく傾向もまた、食の作り手と買い手の関係性の力学を形作っていったように思うのです。昨今のBSEなどからはじまるトレサビリティや、恵方巻が年間行事のように話題になることに代表される食品ロス問題など、「悪いことをするかもしれない作り手/かわいそうな食べ手」みたいな感じに見えます。

「Farm to Table」という言葉には、どれも暗に上記のような時代が生み出したゆがんだ作り手と食べ手の関係性に見えるのです。そして「Table to Farm」も同じだけ大切にしてはどうかと思うのです。食べ手がふんぞり返っているのではなく、積極的にフィールドに行ってみること。

食卓から産地へ。そう実践している人たちが増えているように思います。東日本大震災以降に増えているようなイメージです。ことさら農業・漁業・酪農・畜産・林業といった一次産業や素材に近い食べ物の作り手と出会い、現場を見ると楽しく、抱えきれないほどの気づきがあり、作り手と顔をあわせてその情熱を知ると、自然とそこで生まれ育った食べ物に愛情がわいてきます。安全も信頼もおいしさも、与えられるのではなく自らが関わって築いていくもの。

 こういう作り手と食べ手が手を携えた関係性をスタートラインに、直面するさまざまな課題を解決しようとするときにすばらしい力が発揮されていく。そういう取り組みはすでにいくつもスタートしていて目の当たりにしたこともあります。あとはいかにはやく、広げていくか。

わずかながら映像で役立てられたらと、わたしもフィールドへ!