2023年に入ってから遠忠食品の宮島さんと長井さんから「これまでやったことのない新しい取り組みをはじめるから一緒に来ないか?」と連絡をもらいました。新しい取り組みとは、採れたての生海苔を冷凍をかけずに新鮮なまま佃煮にするというもの。
現在海苔はそのほとんどが焼き海苔に加工されたものが流通しています。生海苔を入手するには海苔漁師から直接買うことになります。しかしながら収穫した生海苔を海苔漁船からポンプで吸い上げて、そのまま洗浄から焼き上げまで一気に仕上げる工程の途中で生海苔を取り出して販売するのは海苔漁師としても手間のかかることです。遠忠食品の三代目、宮島一晃さんは、なんとか江戸前の生海苔佃煮を作ろうと約40年前から海苔漁師のところに通い詰めて生海苔佃煮を作ってきた背景があります。
こうやって手に入れた生海苔は、保存のため冷凍します。この生海苔を佃煮にするため解凍するときにドリップが出ている様子を見て「ドリップもいわば海苔のうまみ、栄養なんだから、これを逃さずに佃煮にしたらどうだろうか」と思ったのが、今回のプロジェクトの出発点なんだそうです。
そしていっしょに取り組んでくれる海苔漁師を探すなかでSNSで知り合った横須賀・走水の丸良水産が「やってみましょう!」と手を挙げてくれたのです。
映像はその丸良水産を訪問して、その日のうちに佃煮に仕上げる工程に同行して撮影したもの。収穫は海苔の生育状況、天候など複数の要件が揃うタイミングを狙って行うのでスケジュールは流動的です。
この日は幸い天候にも生育状態も良いタイミングで収穫できて、洗浄でいわゆる活け締め状態になった海苔はすぐさま冷蔵トラックに積まれて遠忠食品の工場へ。海苔の状態や味を見極めて仕上げ方を相談します。このときすでに海苔の葉がふっくらとしています。そのまま食べてみると花びらに似たやわらかで繊細ながら弾みのある食感と海苔と海の香りがします。
直火釜で仕上がった、海苔佃煮はやはりこの独特の食感と風味が満喫できる仕上がりになりました。生海苔佃煮のパイオニアがまた鮮度という新しい美味しさの扉を開いています。