はじめに
日本野菜テロワール協会(代表:小堀夏佳さん)の立ち上げ第1回目の映像制作としてお声かけをいただき、取材撮影をしているところです。2022年8月17日、8月22日と常陸太田市で撮影した映像を2分半にまとめています。この後、9月には開花。その後収穫。そして製粉して食べる一連のストーリーを映像にしていけたらと思っています。以下の取材メモです。日本に伝わる伝統野菜とそのテロワールの魅力については、ぜひ日本野菜テロワール協会(https://vege-terroir.jp/)をご覧いただけたら、これからさまざまな野菜のドラマがご覧になれるのではないかと想います。
茨城県常陸太田市は蕎麦の名産地だ
通称「そば街道」とよばれる道が3本ある。蕎麦畑に挟まれた道で、その道しるべとして,表情豊かな石彫刻が置かれている。
2022年のお盆明けに種を蒔く人がいた。伊勢又米穀製粉の多賀野 弘泰さんだ。播いているのは金砂郷在来。この地にかつて栽培されていた蕎麦の在来種を多賀野さんは復活し、この土地の特産品として育てていこうと数年前から5軒の農家とともに取り組んでいる。
伊勢又米穀製粉は、いまから約90年前から蕎麦などの製粉をてがける会社として設立された。江戸時代から三大たばこの産地(水府たばこ)だったこの地で、たばこの後作でそば栽培が奨励されたのだ。創業者である多賀野さんの祖父は、地元の蕎麦が地域ブランドにならず、長野など他県に出荷され蕎麦として製造される様子をみて、茨城のブランドをつくろうと出資者をつのって昭和5年に伊勢又米穀製粉をたちあげる。
全国の人気品種、常陸秋そばの誕生
その後、茨城県が県内各地の蕎麦をあつめて優良品種を選抜・育種しようとしたときに選ばれたのが当時、常陸太田で栽培されていた金砂郷在来だった。県は金砂郷在来の種からさらに優良と思われる種を選抜育種する。そうして誕生したのが「常陸秋そば」だった。
常陸秋そばは、当初は常陸太田で栽培されていたが、年を重ねるごとに近隣の地域へと広がり、そしていつしか全国で積極的に栽培されていく。
金砂郷在来の発見
父親から伊勢又米穀製粉を引き継いだとき「常陸秋そばを常陸太田の特産品とは言えなくなっていた」と多賀野さんは振り返る。そんなときに同市の赤土町に住む叔母から譲り受けた蕎麦の種が、常陸秋そばとは違うことに多賀野さんは気づく。すぐに蕎麦をゆずってくれた叔母に電話して確認すると、(県が育種した常陸秋そばではなく)その以前から育て続けてきた蕎麦だった。常陸秋そばの祖先にあたる、金砂郷在来が一軒の叔母によって守られつづけてきたのだ。
多賀野さんは、この種を守ろうと友人に呼びかけ栽培をはじめる。そうして育てられた蕎麦は、そば打ちをしても手に感じるねばりも違い、また食べても野生の香りと味が広がった。
この金砂郷在来をこの地で守ろう。多賀野さんは誓った。「その土地でとれた蕎麦をその土地で育む。日本中でそういう活動が広がったら、お互いに土地固有の蕎麦が楽しめるから」と笑う。
広がった畑に播かれたのは、伊勢又米穀製粉の創始者である祖父の志と、金砂郷在来を守り続けた叔母の想いかもしれない。
秋の開花に取材は続く。
撮影情報
- クライアント:日本野菜テロワール協会(https://vege-terroir.jp/)
- 取材先:伊勢又米穀製粉株式会社(https://soba-isemata.com/)
- カメラ:Sony FX6
- レンズ:FE PZ 16-35mm F4 G SELP1635G
- マイク:Zoom F2/bt
- 編 集:DaVinci Resolve18